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東京地方裁判所 昭和33年(行)189号 判決 1960年3月10日

主文

本件訴はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

当事者双方の申立、事実上の主張及び証拠関係は別紙記載の通りである。

(昭和三五年三月一〇日 東京地方裁判所民事第三部)

第一、請求の趣旨

一、被告は原告に対し東京特別都市計画復興土地区画整理事業(第三十地区)の設計を廃止したことを確認せよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

第二、請求原因

一、被告は、昭和二十一年東京都の戦災復興計画を決定し、右計画決定に基く事業の土地区画整理の一地区として高円寺駅附近につき昭和二十三年三月二十日東京都告示第一三三号を以て、地区番号を第三十、地区名を高円寺駅附近、面積を約一六六、〇〇〇坪、区域を杉並区高円寺三、五、六、七丁目、同区馬橋二、三丁目の各一部及び中野区大和町の一部として告示し、その地区を表示した図面を縦覧に供した。被告は、昭和二十五年三月九日建設大臣に対し右第三十地区の設計認可を申請し、建設大臣は同年六月二十六日右設計を認可した。右認可を受けた設計によつて被告は区画整理事業に着手したが、その後、昭和二十九年五月十二日右設計の変更につき建設大臣の認可を受け、事業を施行した。

二、前記東京都の戦災復興計画決定による土地区画整理地域は、当初約五、五五五、〇〇〇坪であり、昭和三十二年迄に内約三、二〇〇、〇〇〇坪につき区画整理事業を実施したが、右事業費用の大部分が国の戦災復興事業費予算に依存していた関係上、同年末を以て、右予算が打切られたので、右事業の未実施地区約二、三〇〇、〇〇〇坪については事業の実施が不可能となり、右計画による土地区画整理事業を廃止するに至つた。そうして、廃止に伴う区画整理事業の後始末をするため未実施の約二、三〇〇、〇〇〇坪の内重要部分約八〇〇、〇〇〇坪についてのみ都市改造事業費を以て新たに土地区画整理事業計画をなし、これを収束計画と称してこれに基いて土地区画整理事業を施行している。

これを本件第三十地区についてみると、昭和三十二年迄に当初の内一六六、〇〇〇坪の内約一七、〇〇〇坪(高円寺駅南口商店街の約一四、〇〇〇坪と同駅北口の約三、〇〇〇坪)について事業を施行したのみであつて、残り約一四九、〇〇〇坪の内約二〇、〇〇〇坪(高円寺駅南口六割の約一六、八〇〇坪と同駅北口四割の約一一、二〇〇坪)を右収束計画による事業区域(甲第四七号証の図面中黄色の区域)として、これが区画整理事業を施行している。右収束計画なるものは、全く新たな計画であり、これについて建設大臣の認可を得ていないし、これを設計変更とみても、設計変更に必要な公示縦覧等の手続はなされていない。

三、建設大臣より設計認可を受けた前記計画は、その事業費用の半額が国の戦災復興事業予算費用であり、残半額が起債であるところ、被告は右国の予算費用を既に消費したばかりでなく、昭和三十二年度末を以て右国の予算は打切られ、他に本件事業実施のための費用の補助を受ける途はない。加えて、右計画設計の認可を受けた当時に比べ諸物価は騰貴し、当初計画された総事業費を以てしてはとうてい本件区画整理事業を施行することはできない。そうして、本件第三十地区については当初工事予定が昭和二十八年七月二十五日であつたのにかかわらず、昭和三十二年度迄において設計区域の約一割を実施したに止まつている。以上の事実に鑑みると、被告が本件第三十地区の土地区画整理事業の設計内容を実施することは社会通念上不可能というべきである。このことは被告が右計画区域の一部の区域についてのみ実施しようとして前記収束計画なるものを実施方針としている点よりするも明らかである。

そうして、被告が右収束計画によつて本件第三十地区についてその一少部分の区域のみ区画整理を実施し、残りの大部分の区域を保留地域として区画整理を実施しないとの方針を定めることにより、本件第三十地区の土地区画整理事業の設計を実施する意思を放棄したものというべきである。

以上の通り、本件第三十地区の事業の設計は、その実施不能と被告の実施の意思の放棄により、被告が右収束計画を実施方針と定めた昭和三十二年八月に廃止され無効となつたものというべきである。

四、原告らはいずれも右第三十地区内の、しかも被告が収束計画において実施区域と定めた地域内に居住し、各自その宅地を所有し、又は借地し、或は建物を所有し又は借家している利害関係人である。従つて、第三十地区の事業計画設計が存するならば、これにより土地区画整理法第七十二条、第八十五条等により、原告らの右地区内の土地建物に対する権利に種々な制限を受けるものであるから、右設計の廃止されたことの確認を求める利益を有するものである。よつて、右設計の無効確認を求める。

第三、被告の申立

一、(本案前の申立)

(一)  本件訴を却下する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

二、(本案に対する申立)

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第四、請求原因に対する答弁及び被告の主張

一、原告らが本件において無効確認を求めている設計自体は、いわゆる一般処分というべきものであつて、その存否によつて、原告らの権利を具体的に侵害するものということはできないから、原告らはその廃止確認を求める利益を有しないものである。よつて本訴は却下されるべきである。

二、請求原因第一項記載の事実は認める。第二ないし第四項記載の事実は争う。

被告は、現在数十地区に及ぶ東京都市計画復興土地区画整理事業を施行しているが、各地区の進捗状況、換地関係等を考慮して、地区毎に早急に事業の完成を図る区域と、一時事業の実施を保留する区域とを定めて、今後の事業の実施方針とした。この実施方針を収束計画と称しているが、これは現在の段階においては被告の内部的な意思決定にすぎないものである。

本件第三十地区についても当初の一六六、〇〇〇坪の内三七、〇〇〇坪が実施区域と定められているけれども、これは昭和二十九年五月十二日建設大臣の認可を得た設計により、その設計の範囲内において行われているものであり、被告において右認可を得た設計を廃止したものではない。

もつとも、右収束計画により変更したように、本件第三十地区事業区域を変更すべき手続は現在進行中であり、右保留する区域については、既に都市計画審議会においてこれを第三十地区事業区域から除外する決定がなされており、近くこの計画変更についての縦覧公告がなされる筈である。

第五、証拠関係(省略)

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